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「それじゃあもう失礼するよ。おフサさん、片付けはあんたがやっておくれ」
「はい、ご迷惑をおかけしました。明日もよろしくお願いいたします」
帰ってゆくおサキをおフサは表まで出て見送った。
その隙に膳の前に座り、箸で魚をつついてみた。幸い焦げているのは表だけのようで中は程よい色合いをしていた。
おフサが戻るとすぐに食事にかかった。誰かと一緒に食事をするのは本当に久しぶりだ。一口一口箸を運ぶ度視線が飛んでくる。どうかしたかと尋ねてもなんでもないと返ってくるばかりで意が知れない。
ああと膝を打ちたい気持ちになり、改めておフサを見る。
「なんだ。その……うまいぞ」
声をかけるとおフサは心から嬉しそうな顔で笑った。こんなことでこれ程喜ぶのであれば、もっと早くに言ってやればよかった。
食事を終え、流しで皿を洗っているおフサの背中を見ながら考える。おフサはもちろん人として暮らすために学ぶことが多くあるだろうが、それは自分にも言えそうだ。支え合って暮らすのが人だと言いながらも、いまひとつその中に参加していない嫌いがあったかもしれない。
「明日はもっと上手に作りますので」
魚が焦げていた他には汁物の大根が不揃いだった。いずれも焦って正すようなことでもないと思ったが、声にこもっていた熱をわざわざ冷ますこともないと思い直しただ頷いた。
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