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「早速どれかに着替えなさい」
言ったところで思い当たった。着付けはできるのだろうか。
「大丈夫です、どうにかなると思います」
そう言うのを信じて一階で待ったが、しばらくして二階からおずおずと呼ぶ声が聞こえた。
「あのう、高田様。申し訳ありません、少々お手をお借りしたいのですが」
「いや。そう言われてもだな」
女の着替えを手伝うわけにはいかない。
「ご心配には及びません。ほとんど済んでおりますが、どうしても帯の見栄えが決まらないのです」
着物を着ているのであれば、と階段を上がった。
女帯の締め方など知らないが見てくれを整える程度であればどうにかなるだろう。
二階に上るとおフサは腰に巻いた帯の端を持っておろおろしていた。
言っていた通り下帯までは済んでいて、明るい色の小紋がよく似合っている。
とても百生きた狐には見えない。
しかしここまでのことはどうやって学んだのか疑問に思い、尋ねてみるとおフサは申し訳なさそうに顔を伏せた。
「はしたないことではありますが、人の暮らしを知るために姿を消してあちらこちらと見て回った時期がありましたもので、その時に」
「いや、見ただけでできるのであればたいしたものだ。
しかし、いっそ神通力で済ませてしまえば――」
言いかけて、おフサが悲しそうな顔をするのを見て言葉が止まった。
「すまん。人らしく暮らすことが望みだったな」
「はい、人のするようにし、人の在るように在りたいと思うのです」
帯の巻き方は私が不精をしてそうするように、一度前で結んでからぐるりと後ろへ回すやり方を教えてやるとうまくいった。
あとは多少くずれた部分を手伝って整えてやる。
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