お願い、消えないで

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郷里から遠い北の九州 三月深夜の出来事だった いつもの食堂からの帰り道自転車をこいでいると 雪がちらついてきたので 僕はユキのことを思い出した 僕が愛したユキは 雪のように白かったので ユキと名前をつけてあげた 僕がこの福岡に来てから知って ずっといっしょだったわけじゃなかった 大学入りたての頃はちょくちょく郷里鹿児島に帰省していたので 彼女の子ども時代を知っている ものすごい素早い元気な子で こんなに落ち着きのない子は初めてで。 次に帰省したときは立派な母猫になっていて 合計12匹の子供を産み育てた 12匹の子猫達はみな季節ごとに帰ってくる僕を家族とは思わず大半が逃げた でもユキだけはちゃんと覚えてて 僕がかつておじいちゃんが座ってたところに座って本を読むと 必ずヒザの上に座ってずっとじーっとしてた 帰省中はそんな夜が何度も続いた 食事も彼女と二人で食べた 実家なのに二人きり。 僕は昔から誰かがおいしそうに食べ物を食べるのを眺めるのが好きだった 誰かのひもじさに 僕の存在が少しでも力になれるのならと
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