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そういえば、アイツの日記もあるんだったな……。
しばらく、アイツの日記を読んでくれ。
………………………
ライウン→謎の女
………………………
『何もあそこまでやらなくてもよろしかったのでは?』
彼、ライウンという男性の怪我の手当てが終えた私は、アデル様のいる居間へ向かうなり、彼に言う。
しかし、アデル様は私の言っている事がわかっているのか、それともわかっていないのか、ニヤニヤしていた。
『オレもな、あそこまで熱心にくるとは思わなかったんだ。アイツはきっと、オレにも出来なかった事をやってくれるさ』
アデル様はその日、ずっと上機嫌だった。
あんなに嬉しそうに話す彼を見たのは、果たして何年ぶりか……あるいは見たこと無かったのかもしれない。
私はため息をついて、キッチンへ戻る。
夕食の為に切り刻まれた野菜達が、そこにいた。
私は一度、石鹸で念入りに手を洗うと、夕食の準備の続きをする。
その間、アデル様について考えていた。
アデル様は昔、勇者と共に魔王を倒す戦士だった。
ただ、他の戦士達とは違い、力が強い訳でもないアデル様は、力以外の方法で強くなる。
それは、今のライウンという男のように、他の剣や武器を使い、それらの技を修得する事。
そこからアデル様は自己流で技を生み出し、他の戦士からは『切れ者のアデル』という通り名さえつけられるほど、有名になったのだという。
しかし、私が知っているのはそこまでだ。
アデル様一行が魔王を倒したのだとしたら、なぜ今も魔王が存在するのか……。
あるいは、アデル様一行は、魔王に敗れたのかもしれない。
それならば確かに魔王が生きている理由になる。
だが、アデル様が生きている理由にならない。
何か、複雑な事情がありそうな気がする。
だが、私にはそれを聞く事が出来ない。
私はただの、『メイド』なのだから。
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