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夕食の準備が終えた私は、アデル様の元へ夕食を届けると、その場を離れた。
主人と一緒に食事をするメイドはいない。
メイドとしての最低限のマナーだ。
キッチンに戻った私は、食器の確認をして、お盆と何枚かの深皿を取り出す。
今日の夕食はカレーライスとサラダ。
だが、実はそれとは別で、もうひとつだけメニューを作ってある。
粥。
主人には内緒だ。
というのも、あのライウンという男の為に作ったモノで、食欲がなければこれを食べさせれば良い。
無理をしてカレーを食べさせたところで、大した回復は見込めないだろう。
私はカレーライスとサラダ、粥を盛り、お盆に乗せると、客間に向かう。
この家は広い。
まるでホテルを思わせるような、長い廊下と、それに見あうだけの部屋数がある。
今回のように、部屋の一つを貸す事は今までもあったが、基本的に2部屋以上埋まる事は無かった。
便利とは言い難い。
私は一室の扉の前までくると、お盆を片手に持ち変えて、ノックした。
傷の手当てをしている時は、まだ気を失っていたようだが、初対面の日の事もある。
そして、その考えは当たっていた。
『どうぞ~』
………………………
謎の女→ライウン
………………………
オレがボロボロになった手を見つめていた時だ。
ノックの音がした。
初日の事もある。
オレは早めに返答をする。
『どうぞ~』
少しの静寂の後、扉が開かれる。
そこには、あの男のメイドがいた。
『夕食をお持ちしました。食欲はありますか?』
夕食?
そういえば、もうそんな時間なのか。
『ありがたい。頂くよ』
オレがそう答えるのを聴くと、メイドは何とも言えない顔をする。
それがわかったのは、テーブルにお盆が置かれてからだ。
(お粥………あ!!)
気を効かせて作ってくれたのだろう。
なるほど、それが必要なくなって、あんな顔をしたのか。
『味の濃いカレーと、薄味の粥か……そうだよな、味の濃いのを食べてると、飽きてくるもんな』
オレはメイドに笑いかける。
『ありがとう、気を効かせてくれて』
メイドは、呆気にとられたように呆然とした後、真っ赤になって去って行った。
少しだけ、可愛いと思ったのは内緒だ。
だがオレは、夕食を食べようとして痛い目を見る。
(痛っ……スプーンが握れない!?)
拳のマメが笑っているようだった。
結局、何分後かに『水を忘れた』と戻ってきたメイドに食事を手伝ってもらう事になる。
(恥ずかしい……)
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