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翌日、ここでの最後の朝食をとったオレは、師に尋ねる。
『オレは未熟だ。他の場所でも剣技を磨いていこうと想う。剣技を磨くには、何処へ向かうべきだろうか?』
師はそれを聴くと、驚いた顔を見せる。
だが、『そうか…』と呟き、ニヤリとすると、
『ここからずっと北に行け。海を越え、山を登った山岳地帯に、居ると思った。……何せ十数年前だ、生きてるのかすらわからん』
そう言いながら、何かをペンで書く。
最後には印を押した。
『生きてるなら、コイツを渡すと良い。アデルから紹介されたと言ってな。
……ナターシャ、あれを』
アデル?
ナターシャ?
『それは、アンタの名前か?』
オレのその言葉に、師はまた驚いた顔をした。
『お前さん、名も知らん相手に剣術を習ってたのか! ……そういえば、言った覚えがないな』
ナターシャと呼ばれたメイドが戻ってくる。
数週間前に使っていた、オレの道具入れを持って。
『紹介しよう。私の名はアデル。この道場のオーナー兼師範だ。
この娘はナターシャ。見ればわかるだろうが、雇われのメイドだ。
今さら紹介したところで何がある訳でもないがな……近くを寄ったらまた来い。飯くらいは食わしてやるさ……ナターシャが』
締まらない終わりである。
一言多いと呼ばれる人間なのだろう。
『ああ、寄らせてもらうよ。人も居ない道場だからな』
からかう。
アデル師は、舌打ちをしながら、ナターシャに目配せをする。
オレは、久しぶりに自分の荷物を受け取った。
『中に入っていた木の実は、頂いといたぞ。なかなか美味かった。……さすがにいつ握ったのかわからない握り飯は遠慮して処分しといたがな』
そういえば、食料はアレだけだったな。
また何処かで入手しなければならない。
『剣が無いんだが……』
荷物を一通りみて回ってから気付く。
そんなオレに、師は呆れたような顔をした。
『あの剣の事を言ってるのなら、あのモンスターと戦った時に折れただろう?』
思い出す。
……そんな気がしないでもない。
『まぁ、あんな安物なら、これから先いくらでも買えるだろう。……オススメはしないがな』
そう言って、師は笑う。
そして、オレの腰に置かれた刀を指差す。
『ソイツは無銘だが、結構な切れ味だ。あんな剣よりも、よっぽど斬れる』
オレは、腰の刀の柄を撫でた。
『ああ、大事に使わせてもらうよ』
オレの言葉に、師は笑った。
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