堕落の勇者

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『世話になった』 オレは二人に礼を言う。 師は照れたような顔をして、 『酋長には世話になってる。あの人の頼みとあっちゃ、断れんさ』 最後にはソッポを向いた。 そんな師に、ナターシャは笑った。 『アデル様の照れる顔を見るのは、数年ぶりなんです。アデル様はこんな事を言ってらっしゃいますが、きっと、毎日が楽しかったのですよ』 ナターシャの言葉を聴いた師は真っ赤になる。 『てやんでぃ!とっとと行け!』 がに股で家に戻って行った。 想わず、オレも笑ってしまう。 『ライウン様、こちらをお持ち下さい』 スカート……なんだろうか? 男で言う、『ポケット』から何かを取り出して握らせる。 それは、紐がついて、首にかけられるように細工されたコンパスだった。 『地図は生憎ながらありませんが、これがあれば方角を間違う事はありません』 彼女は、とびっきりの笑顔と、ウィンクをする。 『……ありがとう、助かるよ』 これがあれば、道に迷う事は無いはずだ。 コンパスを首にかける。 『……じゃあ』 オレは、小さく礼をすると、道場から背を向けた。 歩き出す。 『オレが教えた師範は、北の大陸の山に住む『アージュ』ってヤツだ!』 背に声がかかる。 振り向いた。 玄関の戸口で、師が見送っていた。 『またこい』 もう一度、礼をする。 オレは再び、歩き出した。 オレの旅……止まっていた時間が、動き始めたのだ。 ……………………… ここから、アージュに辿り着くまでの道のりは長い。 だから別冊の『旅の記録①』に書こうと想う。 まだ封は解かれてないかもしれないけど、気になるヤツはそっちも読んでくれ。 次のページは、アージュに会うまでを簡単にまとめてつなげてある。 一応、注意しておくよ。
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