堕落の勇者

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オレは吸い込んだ息を、声に変える。 『ギラ!』 つんざくような轟音と共に、辺りを焼き尽くすような熱気が発生し、それは炎に変わる。 ……… ……という設定だった。 少なくとも、予定では。 どこかで、黒い鳥が鳴いている。 どこか哀愁の漂うその鳴き声は、どことなくオレを慰めているように思えた。 『メラ!』 手のひらから不可視の炎が出現、時間をおう毎にそれは炎としての姿になり、玉となる。 ……はずだった。 オレはガックリと膝をついた。 考えずともわかる事だ。 さして練習もしていないヤツが、いきなり魔法を使えるはずがない。 その日から、オレは剣術と共に魔術も練習する事になる。 翌日。 オレはまたズタボロに負けていた。 まだまだ鍛える余地あり、との事らしい。 オレには、今のまま剣術を鍛えても、強さは得られないと思っているのだが……。 『ヒャド!』 『メラ!』 『ホイミ!』 しかし全ては空発で終わる。 (そもそも、発動の仕方はあっているのか…?) 投げ出したくなった。 『うぉぉおおお!』 腹いせに剣を振るう。 『一石二鳥~!』 などと叫んでも、それが一石二鳥なハズはない。 単なるくすぶりである。 『ぜぃ…ぜぃ…ぜぃ…』 オレは座り込んだ。 剣術も魔術も、一向に上達する気配が見られない。 (……オレは才能無いのかもなぁ…) そうして、オレはきっと『堕落』していくのだ。 オレは気づいてなかった。 そんなオレを見ている、ヤツの視線に。 堕落の始まり、それはもう、すぐそこまで来ていた。
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