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オレが笑いをこらえていた時、不意に後ろに気配を感じた。
咄嗟に剣を抜いて距離をとる。
ラインとは違う、少し歪んだ気配だ。
殺気こそ感じないものの……それ以上は読めない。
『何者だ!』
オレが見た先には、紅い瞳の青年が立っている。
だが、耳が長い。
つまりは魔族や、公にされていない部族だろう。
魔族と言えど、必ずしも彼らが敵だとは限らないのだが。
『残念だな……今日は失敗だらけの呪文が見られなかった』
くくく、と青年は笑う。
『いつから見ていた?』
剣を相手に向けたまま問う。
『ずっとさ。ずぅぅ~っと……くくく』
(ずっと見ていた? 何の為に?)
オレは狼狽する。
こんなに歪んだ気配のヤツが見ていたのに、まったく気付けなかった。
『キミ……呪文を使うのに契約が必要な事、知ってるのかい?』
青年がオレに問う。
『契約? ……知らない』
青年がひときわ大きく笑い出した。
『だろうね。滑稽だったよ』
腹が煮えてくる。
『そう怒らないでくれ。僕はキミに契約の仕方を教えようと想ってるんだからさ…』
オレは耳を疑った。
見知らぬ青年が魔法の使い方を教えるというのは、珍妙な事である。
疑問を抱かない方がおかしい。
『何故、オレに?』
『おもしろいからだよ』
一言だけの単純な言葉だった。
納得は出来ないが、魔法を使えるようになるのはありがたい。
『一つ注意しておくけど、呪文を使うには代償が必要だよ。 一般的な術師は精神を代償にするし、神父は運を代償にする。 自分の命や肉親を代償にする事も出来るね』
オレの脳裏に一瞬だけ母親の顔が浮かんだ。
(馬鹿げてる…)
『オレも精神を代償にする。他人を巻き込むなんて考えられない』
オレが生真面目に答えると、やはり青年は笑った。
にこやかとは言い難い、耳につく笑い方だが。
『我が名はライウン。 契約を欲する者なり。 代償を贄とし、術師としての力を与えよ。 我が名はライウン。 契約を欲する者なり』
オレは青年が何かの粉で書いた魔方陣の上で祝詞(のりと)を読む。
これが一番簡単な方法との事だ。
確かに間違えようも無いくらいに簡単だが……本当にこんなんで使えるようになるのか不安だ。
だが、オレの不安をかきけすように、突然魔方陣が光だす。
『善きかな善きかな。 我は契約を結ぶ者なり。 契約者よ、代償を答えよ』
魔方陣から何者かが現れる。
それはまるで、悪魔のような姿だった。
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