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『契約者よ、代償を答えよ』
魔方陣の上にたったオレに、悪魔のような者が問う。
足腰は龍(この眼でみた事は無いが)を描いたような下半身、腰から上は毒々しい紫色の体毛に覆われた、鬼のような胴体。
オレの目の前にいるにも関わらず、気配は左右と背後からも感じられる。
理由はわからないが、囲まれているらしい。
『代償は我が精神とし、魔術士としての能力を頂きたい』
遠くで何故か青年がニヤリと笑った。
『善きかな。 契約成立とし、汝が術を発すごとに、汝の精神を削る事とする』
何者かがそう告げ、魔方陣の光が弱くなると、彼の姿も小さくなっていく。
そのまま、彼は光と共に消えた。
『おめでとう。 これでキミも呪文が使えるよ』
また、あの笑顔を浮かべる。
オレは苦笑していた。
そんな時…。
『くそっ! 遅かったか!』
突然聞こえた声に振り向けばシュトーレン。
(…遅かった…?)
その手には、あの剣。
『また犠牲者を出したのか、オルフェス!』
彼が睨みつけているのは、青年。
二人は知り合いなのか、ただならぬ空気を感じる。
『また、とは酷いなぁ……僕は困っていた勇者に手を差しのべただけだよ』
彼らが何の話をしているのかはわからないが、《犠牲》という言葉をきく限り、青年は悪事を働いたような印象を受ける。
オレが受けたのは、呪文の契約。
それが何かの悪事に繋がるのだろうか。
『やはり、貴様は私が倒しておくべきだった……。コイツの顛末を変えると知っていたら、尚のこと』
シュトーレンが、一瞬だけオレを見て、剣を抜く。
やはり、契約の事らしい。
彼がどこから見ていた、あるいは知っていたのかは知らないが、彼の過去にも似たような事をした人物がいたのだろう。
だが、今回とそれが同じとは限らない。
彼が思い込みで突っ走っている可能性も無くはない。
現に、魔法の練習をしていたところを見られた訳でもない。
知っているはずも無いのだ。
(止めるべきだろうか…)
オレがそんな事を考えている間に、彼らはお互いの間合いに入ったようだ。
既に戦闘は開始していた。
シュトーレンが突っ込む。
青年は容易くかわすと、距離をとって右手を掲げた。
(…魔法だ)
掲げた手の先に、氷の塊ができ、彼はシュトーレンに向けて放った。
一瞬の隙で敵を逃がしたシュトーレンは左手を目の前に出す。
(え…)
その手から、突然炎が吹き出し、氷をかきけした。
(シュトーレン…アイツは一体…?)
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