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シュトーレンは既に肩で息をしている。
相当、長い時間戦っていたのか、それともここまで追い詰められるほどの敵なのか。
魔族の男は愚弄するように笑う。
『無様なものだな。 かの有名な貴様も年には勝てんか』
シュトーレンはうなだれている。
『それにしても、あの女、まだ生きているというのか。 貴様が呪文など使わなければ、人間として幸せに暮らしていよう・・・』
『だ、黙れ!』
言葉をさえぎるように、シュトーレンは声を荒げて罵倒する。
だが、魔族の男は気にした様子はない。
『だが、それももうすぐ尽きるだろう。贄とされた肉体がただの人間ならば、なおのこと』
(どういうことだ・・・?)
あの女、贄とされた人間・・・。
オレの脳裏に、夕方の青年の言葉が浮かんだ。
『自分の命や、肉親の命を代償にも出来るね』
(まさか・・・)
シュトーレン、知り合いの命を代償にしたのか・・・?
なんとなくだが、話の内容から考えるならば、パズルのようにつじつまが合う。
彼は呪文を使っても、その代償の気配が見えない。
それだけなら魔法で納得も出来ようが、彼の呪術を知る魔族二人の言葉が、それを魔法ではないと取れる言葉を発している。
オレには関係の無い話だ。
だが、それが本当ならばシュトーレンを人間として信用することが出来ない。
シュトーレンが肩を震わせながら立ち上がる。
『私だってわかっている。 なぜ、あんな選択をしたのか。 未だに理解は出来ていない。 だが、私はオルファの犠牲を無駄にすることは出来ないんだ!』
シュトーレンが首から下がったペンダントを握り締め、鎖を引きちぎった。
魔族の男が驚いたような顔をする。
周囲の空気が変わった。
敢えて説明をするなら、シュトーレンの周りの魔力が増大して、それが渦巻いているようだ。
『貴様ごときに、これだけは使いたくなかったが・・・オルファ・・・許せ』
彼の周囲が光りだす。
魔族の男は逃げ出そうとした。
だが・・・。
『・・・!!』
自分の足元を見た彼は、その顔を驚愕に変える。
その足は地面に同化し、もはや己の肉体ではなくなっていた。
オレも嫌な予感が消えない。
震える足を無理やり動かしてでも、シュトーレンを止めなければ・・・!!
走ろうとした足がもつれて、オレはつんのめった。
地面が眼前に迫ったのを知った直後に衝撃。
『いててて・・・』
オレは起き上がろうとして、地面をみて愕然とする。
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