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『・・・』
言葉が出ない。
彼は、そこに存在していたという証はあった。
それは、地面に突き立てられた剣と、剣を握り締めて座ったまま白骨化した、彼の遺骨。
ずっと睨み付けていたのだろう、視線の先には魔族が身に付けていたのだろう、衣服。
ボロボロになって、地面に張り付いたそれだけが残っていた。
『シュトーレン・・・』
一陣の風が吹く。
シュトーレンの服を揺らした。
彼は、そうして勝利の風に吹かれて、ようやく剣から手を離したのだった。
『まだ・・・教えられていないことがたくさんあったんだがな・・・』
シュトーレンは答えない。
もう、二度と答えることはない。
オレは地面に刺さったままの剣を引き抜く。
『形見にもらっていくよ・・・』
オレはシュトーレンに、礼をした。
師に気を取られていたためか、オレはその存在に気づけなかった。
後頭部に熱いうずきを感じたオレは、すべての感覚を失う。
『ボクは永遠のライバルを失った。 ・・・彼を失って悲しいのは、君だけじゃないんだよ・・・』
視覚を失い、意識を失う直前、そんな言葉がきこえた。
それは、どこかで聞いたことのある声だった。
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