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オレはシュトーレンを想い出していた。
結局、人身御供にしたことは聞けずに終わり、彼は異界の住人となってしまった。
謎だらけの人物は、謎を残したまま去っていった訳だ。
オレは苦笑する。
もともと剣を習うだけで、長居するつもりはなかった。
長く居すぎたせいで、厄介なことに巻き込まれたに過ぎない、とオレは結論づける。
ふと、左手に握られたままのむき出しの剣をみる。
異様なまでに妖しい気配を放っていた『それ』は、今こうしてみても、そんな気配は見えない。
もしかしたら、あれはシュトーレンの剣技に嫉妬したオレの心が見せた幻影だったのかもしれない。
(・・・)
いずれにせよ、この剣の持ち主はこの世を去ってしまった。
形見となった、その柄を握り締める。
(・・・)
オレは、心のわだかまりに気づく。
師を失った事による悲しみか・・・
それとも、人身御供を蔑んだ心の歪みか・・・
答えは出ない。
あるいは、その他にも理由があるのかも知れないが、わからない。
ひとつだけわかる事。
それは、彼をとめる事が出来ず、足をすくませていた、自分自身の弱さ。
オレは、ただ単に悔しいだけなのかもしれない。
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