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ソファーに腰かけたまま、ため息をついた。
相変わらず、誰も部屋にくる気配はない。
運ばれた時の装備といい、この状況といい……真意が全く読めない。
普通に考えるなら、シュトーレンと戦っていたヤツラの一味に捕らえられたか、それともたまたま付近を通った何者かに助けられたか……だが、後記は限りなく可能性は低いだろう。
殴り倒されたのだから。
気がついてから、どれくらいの時間が経ったのだろうか。
部屋に罠が仕掛けられている事を予想したオレは、ソファーから一歩も動いていない訳だが……まぁ……足が痺れた。
(……つぅ……)
想わず目から涙が溢れる。
容赦ない痺れは、例え何かが患部に触れている訳でなくとも痛みを発し、オレは声を押し殺しながらソファーを転げ回る。
監視されているならば、これほどシュールな光景は……そう無いはずだ。
(野郎共め……絶対ぶちのめしてやる……)
さらに数刻が経った頃、やっと何者かの気配を感じる。
部屋に唯一ある扉、その奥は廊下なのだろう。
やや響きのある足音が聞こえて、それはおそらく部屋の前で止まった。
オレはソファーから起き上がると、むきだしの剣を構えた。
ゆっくりとノブが回される。
開いた扉の奥に居たのは……鎧の女。
彼女は驚いた様子を見せず、ただ一言。
『気がついたようだな』
腰にぶら下げられた剣に手を伸ばす気配はなく、殺気も感じられない。
『アンタは? ここはドコだ? なぜオレは牢屋ではなく、こんな部屋に居る?』
構えたまま疑問を口にしたオレを、ジトッとした眼で睨まれる。
『人間界のヤツらは、礼儀も知らんのか? 人に名を尋ねる時は、先に自らを名乗るものだ』
(む……)
正論だった。
『まぁいい……。私はルミナス・オ=ルカ。ここはアークランド、お前たち人間の言う、魔界の一国だ』
オレは耳を疑った。
彼女が今、『魔界』と言ったように聴こえたからだ。
だが、彼女は冗談を言っている風でもなく、この建物の事もある。
とりあえずは、仮に魔界として考える事にしよう。
なにはともあれ、オレも名乗る事にする。
『オレはライウン。人間界の勇者だ』
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