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海辺に住む高校生の築山 雅人(つきやま まさと)は一人、海岸で釣りをしていた。
彼はウキを見つめ、あの日のことを思い出していた。
今でも鮮明に思い出せる。あの子のことを…
いじめられていた雅人をかばい、助けてくれた彼女…
長い人生の中で一番大切な存在になった彼女…
そして、風のように去っていった彼女…
寝ても覚めても思い出すのは彼女のことだけだった。
そんな時、雅人はいつも思う…
「本当にアイツのことが好きなんだなぁ…俺って…」
思わず漏れた溜め息を、ウキと共に海が吸い込んだ。
「よしっ!!かかった!!」
雅人は勢いよく立ち上がり、竿を引く。
釣り糸の先には大きな魚が食いついていた。
ちょうどあの日も、かかったのは、これ位の魚だった…
雅人は不意に、あの子と出会った日を思い出した。
その隙に、かかった魚は逃げ出した…
―5年前
少年・雅人は、人の輪の中心にいた。
取り囲んでいるのは、彼の友達ではなかった。
「お前さ~、うっとうしいんだよ!!目障り!…消えてくんない?」
雅人を囲む集団のリーダーらしき少年が、しゃがむ雅人を蹴りながら、暴言を吐く。
それに触発されたかのように、その他の子供達がわめく。
「そうだ!そうだ!消えろ!消えろ!」
「お前、うざいしな!!」
「義人君の言う通りだ!!」
口々に叫び、蹴り、殴る。
義人(よしと)と呼ばれた、リーダーらしき少年は、薄ら笑いを浮かべて、その様子を見ていた。
―バタンッ!!
不意に屋上のドアが開いた。
少年達は一斉にその方向を見た。
そこには、一人の少女が立っていた。
「あんた達…何やってんの…?」
彼女は困惑した表情で義人達を見つめる。
義人はニヤリと笑い、自慢げに言った。
・・・
「築山と遊んでやってるんだよ!どうだ、鈴原。お前も一緒に遊ぶか?」
取り巻きもニタニタと笑う。
鈴原(すずはら)と呼ばれた少女は、ツカツカと歩み寄ってきた。
義人は意外な行動に少し驚嘆しつつも、笑いながら歓迎した。
「おっ!?意外に乗り気じゃねえか!じゃあ、まずは蹴ってやれッ…!!」
だが鈴原の足が捉えたのは、義人の脇腹だった。
「…ッつ!!どこ蹴ってんだ!!!俺が蹴れって言ったのは、コイツのことだ!俺じゃねぇ…ッ!!」
もう一発、義人の脇腹に入った。義人は悶え苦しむ。
「何しやがる!!」
睨みつける義人を見下し、鈴原は冷ややかに言う。
「イジメ制裁よ!!」
空気が凍った。
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