40人が本棚に入れています
本棚に追加
ある晴れた秋の日。
都心にある巨大な公園の一角。
落ち葉が絶えず舞い落ちるポプラ並木を背にしたベンチに俺達は腰掛けている。
俺の隣には秋穂(あきほ)が座っていて、彼女の伏せられた睫毛が陽の光にキラキラと輝いている。
俺はそれをぼんやりと眺めていた。
すると、秋穂の足元にゴムボールが弾みながら転がってきた。
秋穂の横に立て掛けてあった白い杖に蛍光色のボールがぶつかり、杖が倒れた。彼女の肩がびくりと動いた。
「すみませ~ん。」
ボールの後を二歳程の男の子の手を引いた母親が追いかけてくる。
「大丈夫。ただのボールだよ。」
そう言って秋穂の膝の上にあった手を握ると、彼女は安心したように息を漏らし、そっと手を握り返した。
俺は手を放し、転がっているボールを拾った。
手の指をしゃぶっている子供の前にしゃがみ、ボールを手渡す。
「はい。どーぞ。」
男の子ははにかみながら自分の頭より大きなボールを両手で受け取る。
「ありがとうございます。
ほら、あっくん!お礼は?」
「ありがとう。おじちゃん。」
ギクリとした。
思わず秋穂の顔を盗み見る。
秋穂の様子はそう変わらなかったが、俺は冷や汗をかきながら親子が離れて行くのを見送った。
「は、あははは……!おじさん扱いされちまったよ~!」
俺は大袈裟に明るい声で秋穂に言った。
「まだ高二だっつーのに………なぁ!?」
秋穂がくすっと笑う。
「まぁ…あれだな!
小さい子供には大人はみんなおじさんなのか。」
「きっと颯(はやて)がおじさんくさいからだよ。」
秋穂がふざけて言った。しかし俺は気が気じゃない。
「んなことねーよ!あははは……」
俺は騙しているのだ。
秋穂の目が不自由なのを良い事に。
何が「まだ高二」だ。
本当は「おじさん」と呼ばれても仕方が無い、31歳だとのに。
**************
最初のコメントを投稿しよう!