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彼女は盲目の生活に慣れているらしく、予想より遥かに行動はスムーズだった。
自分の家の中であれば健常者と区別が付かないように思えた。
俺は台所で彼女が支度する後ろ姿を見ながらテーブルについている。
手伝うべきか否か迷い、腰を何度か浮かしたが、あの狭い台所に二人並ぶのもどうかと思い、おとなしく座っていた。
「お待たせしました。」
しばらくして、彼女は水玉模様の四角いトレイにマグカップに入った紅茶とカステラそれぞれ二切れずつ乗った皿を乗せてやって来た。
「ありがとう。悪いね。」
「いえいえ。あ、お砂糖。」
「あ。お構いなく。」
「そうですか?」
彼女は俺の目の前より少しずれた所にカステラと紅茶を置いた。
そして向かいの席に座って
「召し上がって下さい。」
と言った。
「いただきます。」
久しぶりに食べるカステラは口に入れると、昔から変わらない味と香りが広がった。
彼女の前に置かれた皿、フォーク、マグカップ全てが俺が今使っている物の色違いだった。
こうしているとずっと前から二人で暮らしていたような錯覚に陥る。俺は馬鹿な考えを必死に掻き消しつつ、彼女に訪ねた。
「誰と暮らしてるの?」
「姉と二人で…」
『なるほどね。』
ペアの食器に女性的な雑貨達。俺は静かに納得した。
「暮らしてました。」
「“ました”?」
「亡くなったんです。おととい。」
少女の喪服の理由。俺は口を噤んだ。
「今日から一人暮らしです。」
淡々と言ってのける少女に俺は呆気に取られた。
『一人で暮らすって……目が見えない上にまだ子供じゃないか!』
「え?君、何歳?」
「16です。」
「じゅうろく……」
有り得ない。なんて話だ。
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