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「両親は?」
「数年前に事故でいっぺんに亡くしてしまいました。」
「親類とか」
「あ、生活費だけは貰ってるんです。
一緒に生活するのは、障害のある私なんて重荷だろうし……
さすがに悪いな、と思って。」
「そんなわけないだろ……!」
俺は思わず、少女に向かって怒鳴ってしまった。
「甘えればいいじゃないか。そんな無理する必要ないだろ。」
「いいんですよ。」
少女は冷たく笑った。
「障害のある私がいけないんです。」
泣きそうな笑顔の少女の言葉に俺は抱き締めたいのを必死で堪えた。
悲しい…。そんな話、悲しすぎる。
「大丈夫ですよ。心配しないで下さい。
姉は働いてたから、一人で学校にも通ってたし、慣れてますから。」
「…………。」
「まぁ、一人で歩くのは怖いですけど…。」
「俺が付き添うよ。」
「は…?」
「君が外に出たい時は、俺が連れ出す。」
自分でも目茶苦茶な事を言っていると思った。しかし、この寂しい少女を支えてあげたいが一心だった。
「そんな………悪いです。」
「俺がしたくて言い出したんだ。」
「でも、忙しいでしょうし。」
「日中なら空いてる。」
「あの、お仕事は?」
「バーのマスター」なんて言ったら、どう思うだろうか。
俺はこの時すでに彼女に惚れてしまっていた。彼女と恋愛関係になりたかった。
『31歳なんて言ったら完璧おっさんだよな……。』
「定時制の高校通ってるから。」
「へ?」
「タメなんだ。俺。」
とっさに考えた嘘はどうしようもなくて、自分でも呆れた。
「同い年…。」
彼女は不思議そうに眉間に皺を寄せ、目の前のカップを手の中でいじった。
『目が不自由な少女を騙しているんだ…。』
俺は段々後ろめたくなってきた。
『やめれば良かったかな。』
黙ってしまった少女を前に俺は後悔し始めた。
俺はいたたまれなくなってテーブルにこぼれたカステラのカスを指の腹で集める。
「優しいんですね。」
「え」
顔を上げると、少女が少し恥ずかしそうに口を結んで笑っていた。
「お願いしても、…いい?」
「も、もちろん」
『あぁ。良かったんだな。これで。』
彼女の笑顔見て、俺は思った。
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