海に還る

2/12
前へ
/19ページ
次へ
その躯は海の匂いがした 首筋を舐めると潮の辛さに懐かしさを覚える 還ってきた… 石膏の白さと硬さに汗が滲み その背中に胸を押しあて抱きしめてみる… 隙間のなくなった空間に溶けていきたい自分がいる そしてかろうじて魚の形を留めた私は泳ぎだす 上になりながら…およぎだす 海が見える… あのゲル状の生暖かく柔らかい海… 沈みこむと息ができず それでいて包み込むような… 独りで泳ぎ疲れた頃 躯を投げ出し底へと沈み ただ波間に身をまかせ満つる刻を待つ… よせてはひいていくあの波に… すべてが終わり眠りについた頃 人知れずこの思いは海の泡となり消えて‥いく…だろう そして… 陸に上がった私は また声を無くしたまま生きる あいしてる… あいしてる… あいしてる…
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加