第1章 一昨年の2月 1

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第1章 一昨年の2月 1

俺、谷口悟【たにぐち さとし】は、1年2組。言うまでもなく高校である。同級生の国木田純【くにきだ じゅん】こいつとは幼稚園からの付き合いである。まぁ要するに腐れ縁という奴だ。 この時の俺は・・青春時代の一歩手前・・水色時代ってとこだな。悲しい事なんてなかった。 嬉しい2月である。 バレンタインは男子が一番そわそわしているが、俺は貰うあても無いので普通に過ごしていた。男子らしくない、2月14日である。最も俺にしたらバレンタインデーなどただの2月14日でしかない。・・これは、変な考えだな。 純は・・というか純も、貰うあてが無いので、平然としている。クラスで一番モテる川島竜平も腐れ縁である。そいつは・・チョコをいつも2、30コ持って帰って行く。でも、今年は俺にちょっとした運が回って来たのである。 放課後、“天草円花”という奴から呼び出しをくらい、天草とは小学校からの付き合いで、かわいいという事は知っていた。 屋上に呼び出すなんて、マンガみたいな話だが、俺は、東号とうの屋上へと向かったのである。 天草には毎年義理チョコを貰っていたが、それはいつも天草が俺の家まで来て渡していた。今年に限ってなんでこんな渡し方を・・それを純と水無月洋に知られてしまったのである。 洋とは高校ですぐ気が合った。 無駄に重い屋上のドアを開け、そして西の方を見てみる。すると、言うまでも無いが、最高に綺麗な夕陽があったのである。この校舎は10階建てである。山の向こうまで見える。 もちろん【?】海まで見えるのだ。景色が良いのはそれで良いのだが、この東号とうの屋上から自殺する奴が毎年出るのだ。バカな奴だ。とその時は思った。それが自分になるとは、 『驚いた?悟君。』 きっと、隠れて居たのだろう。ちゃんとドアを開けるまで。 『天草。何で今年に限ってこんな渡し方なんだ。』 『だって、今年からは義理チョコじゃないもん。悟君て、鈍チンだね。』 腰までの黒髪。整った顔立ち。美少女といわずして何と言おう。 『どういう意味だ。天草』赤らめた顔を俺に向け、 『だって私は悟君が好きなんだもん。だから本命チョコという訳!』 あの「美少女円花」とまで呼ばれている天草が?俺に本命チョコだと? 『んじゃ、はい。私と付き合って下さい、と』
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