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「ちょっとすいませんーっ!こらーっ!開けろーっ!」
吟味は朝もはよから響いた声に目を覚ました。時計を見てハァ…と深い溜め息をつく。
「六時か…」
黒髪を後ろで束ね、着物に着替えて外に出た。声は二階からだ。
「こらーっ!君いい加減にしてくださいよっ!毎晩毎晩ジャカジャカ五月蝿いんですよっ!」
怒鳴っているのは202号室に住むアメリカからの留学生・レオンだ。レオンは右隣の203号室に住むV系バンドマンの明人といつも口論を繰り広げ、近隣に多大な迷惑をかけている。
「聞いてんですかー!?」
「うるせぇんだよっ!朝っぱらから喚くんじゃねぇっ!こっちは今寝始めたとこなんだよっ!」
明人が出てきて二人の口論はいよいよヒートアップする。
「何回言ったらわかるんですかっ!君のベースがとんでもなく五月蝿くて眠れないんですよっ!」
「仕方ねぇだろっ!昼間は忙しくて夜しか練習出来ねぇんだよっ!だいたい文句言ってきてんのはテメェだけじゃねぇかっ!」
「それでも迷惑にはなってんですよっ!君もいい加減にしないとどこぞの騒音おばさんみたいに捕まりますよっ!」
「テメェの朝っぱらからの怒声とどう違うってんだっ!」
「これっ!二人共やめんかっ!」
吟味が間に入った。
「大家さんっ…だって明人がっ!」
「レオンの野郎がよぉっ!」
「朝早くからの口論はやめいと何度も言ったじゃろうが。明人。お前も少しは改善せんかっ。一番部屋が離れておる儂にも聞こえておるぞっ」
「っ…」
「レオンも。腹が立つのはわかるが朝早くから怒鳴り込んではお前も明人と変わらんぞ」
「っ…すいません…」
「ふぁ…少しは静かに寝かせてくれんかのぅ…」
欠伸をしながら吟味は階段を下りて行った。
残された二人は顔を見合せ、「ふんっ!」とそっぽを向き合って自分の部屋に引っ込んでしまった。これが神組荘の一日の始まりである。
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