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直樹の手から傘が滑り落ちた。
その場に転ぶように尻餅をついて口を押さえている。
「…なっ!」
目の前には首のない動物が歩道に横たわっていた。少し雪が積もった上が血の色で染まっている。肋骨が体から飛び出ている。
普通、叫び声くらい上げてしまうと思う。それぐらい悲惨な死骸。辛うじて、見た目で犬か猫だっと判る。
「直樹、大丈夫?」
「………」
血の気の引いた震える手で俺のコートの裾を掴んでいる。冷たい手を握ってハァーと息を吹きかけて擦ってやると摩擦で少し温かくなった。
「ここで待ってて」
「…?」
一言、言い残して走りだした。車にひかれたのなら首は近くに落ちているか…タイヤに付いていると思うけど…。
しばらく走っていたら靴とズボンの裾が濡れて重たくなってきた。歩きにくいし冷たい。
「あっ…」
あった…
急に胸の辺りが苦しくなった。
「可愛そうに…痛かっただろ?寒かっただろ?」
さっきまで巻いていた俺の体温で温まったマフラーで包み込んで優しく頭を撫でてやった。
大丈夫、今は俺がそばに居てあげるから。
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