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歌が聞こえる。
教室の窓からやわらかな風が子供たちのはしゃぐ声を運んでくる。
その中にかぼそい歌声が交ざっていた。
あのこがほしい
いや、聞こえない。
聞こえないんだ。
私はそういい聞かせてシャーペンを握った。
目を閉じても、教科書を読んでも…歌は耳を擽るのを止めない。
仕方なく、外に跳ねる中途半端な長さの黒髪を手櫛でとかすふりをしながら…耳を塞いだ。
だが、このまま耳を塞いでいたら先生に目を付けられ・・・やばい。
遅かったか、先生がこちらを睨んでいる。
「灰空さん、次の問題を解いてもらえるかしら?」
灰空 虚鈴(はいそらこすず)。
私の名前だ。
曇り空のようなこの名前のせいか私は冴えない毎日を送っている。
「灰空さん、もう小学生じゃないのよ。ボーッとしてちゃだめよ。」
「はい、すみません・・・。」
キンコンカンコン
チャイムが授業の終わりを告げた。
「こっすずー!さっきの授業さぁ、なんか見えたの?」
赤茶の短い髪、くりっとした大きな猫っぽい目をした女子が満面の笑みで私の肩を叩いた。
「ん?見てはいないよ。」
進藤アヤ、小学校低学年からのつきあいで今の私の一番の親友だ。
昔、アヤが転校してくるまでは別の親友がいたがアヤとは入れ違いになってしまった。
「シンヤがいたらあれが何かわかるんだけどな。」
「あ、私が来る前に転校しちゃったこ?・・・てかやっぱ何かあったんじゃない!話しなさいよ~!!」
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