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私とアヤが席に着くと、マルゥはお茶をいれてくれた。
一息ついたのちに、マルゥは席を立ち上がった。
「ようこそ、サー・プラム心霊相談所へ。
改めて名乗ります。わたし、マルゥ・プラムといいます。」
軽く一礼をしてまた席に着いた。
「お父さんが不在だからわたしがお店の留守くらい守らなきゃね。」
アヤが感心してマルゥを見た。
「じゃあもう一度自己紹介しようかな。私は進藤アヤ。
夢ヶ丘中の一年生だよ。
霊感はないけどオカルトは大好き。マルゥちゃん、なかよくしよーねー☆」
流れからして私も言わなきゃダメなんだろうなぁ・・・。
「灰空虚鈴。アヤと同じクラスよ。
怖いのは嫌い。」
何でこんな流れになったんだろう。
お目当てのバッチはないし怪しい少女の家に呼ばれるし。
早く帰りたいよ。
俯いてため息を零すと足元で何かが光った。
「バッチ!」
紛れもなくバッチだ。
しかもかなり上等な品。
思わず手にとって眺めてしまった。
「バッチ好きなの?」
マルゥがすかさず聞いた。
そして私の様子を見て確信したらしく、待ってて!と言い残して部屋を出ていった。
アヤとのんびりお茶をすすりながら待つと、マルゥが両手いっぱいにバッチを抱えて帰ってきた。
「前の店の人がたくさんくれたの。」
どれもこれも一目で高価なものだとわかる。
今は亡き有名なデザイナーのレア物や教科書に乗りそうな歴史あるバッチがごろごろしている。
その上、品薄の流行バッチまで揃っている。
こんなに厳選されたバッチの数々を見たのは初めてだ。
私はこれまでにないテンションでバッチを一つ一つ愛でた。
アヤも暫く見惚れていたが、さすがに私にはついていけなかったらしく呆気にとられて私を見ていた。
あぁ・・・もぅ・・・・・・どうなってもかまわない。
この子たちに囲まれて生きていきたい。
マルゥはそんな私を見て口元をねじ曲げた。
ぞっとする笑み。
忘れかけていた悪寒が走った。
黒い羽・・・ この子は
人間じゃないんだ。
「そのバッチ、全部あげようか?」
魅力的な言葉。
でも逆らわなければいけない何かを感じる。
目の前のバッチがすべて手に入るのだ。
何を迷うことがあるだろう。
羽も青年もきっと見間違えだ。
・・・そう、何の問題もない。
「いいの?」
私はごくりと唾を飲んだ。
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