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「銀時、何やってんだ雨入るだろ」
とある茶屋の一室。降りしきる雨も気にせずに窓を全開にし、冊子に腰を下ろして外をボーッと眺めていたら突然背後から声をかけられた。
「あーちょっとだし平気だろ。ってかもう風呂上がったんだ?」
指摘されても尚窓を開け放ったまま今しがた風呂からあがったであろう土方の方を向く。
「全開はちょっととは言わねぇ。明日の会議までに仕上げなきゃいけない仕事があるんでな、俺は帰る」
はぁ、と小さく溜め息をついた土方はベッドサイドの小さな机に置かれた煙草の箱から一本煙草を取りだし一緒に置いてあったお気に入りのライターで火をつけた。
「何、仕事終わってなかったの」
「近藤さんの担当だからちゃんと出来てっか確認しねぇと」
体に酷く悪い煙を深く吸い込み、二度目の溜め息と共に煙を外に吐き出す。ふわりと揺れる煙を一瞥すれば、銜え煙草のまま近くに投げ出されたままのワイシャツを拾い上げ袖を通しはじめた。
「ふーん」
気の入らぬ相槌を打ちながら、銀時は土方の少し湿った髪から流れた滴が皺だらけのシャツに染みをつくるのをただなんとなく眺めていた。
「窓、閉めろよ」
「ぁ?あぁ…」
言われて銀時は何処かへトリップしていた思考を呼び戻し、冊子から降りて窓へと手を伸ばした。
薄い着物を羽織っただけで外の冷たく湿った風を浴びていたためか、先程まで火照っていた身体が冷えきって袖から除く元々白い肌をより一層白く際立たせている。
「……雨、か…」
「あ?」
窓を半分ほど閉めた所で分厚い雲が覆う空を見上げ銀時がポツリと呟けば、土方は何だとでも言いたげにズボンにベルトを通しながらそちらに視線を向ける。
「雨止まねぇな」
「…あぁ。そうだな夜明け前にはあがってんだろ」
「だと良いけど。傘持ってねーし」
また暫く空を見上げ、窓を閉めた銀時に土方は少し何時もと様子が違うと感じたが、気のせいだろうと軽く流してさっさと着替えを済ました。
「じゃ、俺行くから。代金はここ置いてく…釣りは好きに使えや」
「うん、わかった。ありがと多串くん」
「誰が多串だ。ちゃんと風呂入って寝ろよ。腹出して寝んなよ」
「わーってるよ。かーちゃんかテメェは」
こんないつものやり取りをすればやはり気のせいだったんだろうと少し引っ掛かっていた先程の思いを頭から追い出し、踵を返して部屋のドアへと向かった。
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