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今まで土方の居た部屋は一人になるとしん、と静まり返り降りしきる雨の音だけが銀時の耳へと響く。
窓際に佇んでいたままだった銀時は小さくため息をつけば着流しを整えテーブルに置かれた金を手に取り部屋を後にした。
「寒…」
外へ出れば冷たい外気が体を纏い吐く息を白く染める。雨が何時も跳ねている銀色の髪や、着流しをシットリと濡らしていくのも気にせず銀時は帰路へと足を向けた。
人の賑わう色町を抜ければネオンの光も届かず辺りは静かな町へと姿を変える。
「風邪、引くかな…」
暫く歩き続けたために全身を濡らし水を滴らせながら髪を掻き上げればポツリと小さく呟くも、既に手遅れだと急ぐこともなく空を見上げながら歩きつづける。
―…銀時
丁度橋へ差し掛かったときである。不意に背後から己を呼ぶ声が聞こえた様な気がして銀時はフと立ち止まり後ろを振り返った。
しかしそこには薄暗い街灯が灯っているだけで、人の影はない。銀時は空耳かと思い再び前を向いた。
―…銀時
一歩、踏み出したときに再び聴こえる声。近くもなく遠くもなく、ハッキリと、しかし何処か消え入りそうな…頭の奥、耳の奥に響く。
コノ声ハ…
だから、雨の日は嫌いなんだ。
嫌なことを思い出させる。忘れたくて、忘れたくて、でも捨ててはいけない過去。
忘れた頃にやってきては思い出させる。なぁ、高杉…お前はいつまで俺を縛るんだ。
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