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その中には、なんの変哲もない普通の糸切り鋏があった。
「これは鋏です」
加藤が言った。
「……いや、見ればわかりますけど……これがさっきの話と、何の関係があるんですか?」
「運命の赤い糸って知ってますか?」
「は?」
この人はつくづく突飛な事を言うな、と健人は思った。
「あれはかなり正確な比喩です。現に縁というものは、糸のように自他を繋いでいるんです」
(コイツは何を言っているんだ?)
健人は、だんだん加藤が何を言いたいのか、わからなくなってきた。
「糸というのは、良くも悪くもほどけにくい。良い縁なら、一生涯の友人ができ、悪い物でもないですが、悪い縁も一生涯続いてしまうのが、難点です……」
加藤が少ししょぼくれたような表情をした。
演技だと言うことは、一目でわかる。
「しかし、そんなときにはこの鋏!この鋏は切りたい人との縁を切ることができるのです!」
そんな馬鹿な。
人との縁を断ち切る?そんなこと、出来る訳がない。
これは詐欺だな、健人はそう思った。
「あ、今、詐欺だなって思ったでしょ?」
健人はドキリとした。
「まあ、それもしょうがないですよね……いきなりこんな話されたら、
「こんな胡散臭い物、買えなんて言っても、買う訳ないですよね……」
加藤は少し考えこんだ。
「わかりました。今回は特別にお試し期間にしましょう」
そう言って加藤は、少し古い糸切り鋏を手渡した。
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