天才魔術師の仕事

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魔術で施された封印は魔術で破壊できる。ちなみに封印を解く、なんて魔術はない。あったとしても俺は知らん。だから、魔術で攻撃して破壊するしかないってわけだ。 それを目の前の少年も知っているからだろう。俺が魔術に使う杖を取り出した時、驚いて後ずさりしていた。いつも杖は腰にある武器専用ベルトに装着している。全身を覆うマントで見えないようにしているがな。 「……はは。む、無駄だよっ!? だ、だって……勇者の封印、なんだし……ただの魔術師が壊せる、わけ……」 「試してみるさ」 やはり、村は勇者が封印したらしい。少年はかなり慌てているようだが、さっき自分が言ってしまったことを気にしているのだろうか。まあ、今は破壊に専念するさ。勇者の封印を破壊しなければならないから、俺の使える最強の魔術を披露しよう。これで無理なら諦めるしかない。 村から十メートルほど離れ、杖を前にして構える。比較的短く、近接武器としての威力はあまり期待できないが、魔術の力を引き出す分には十分過ぎる代物だ。今は亡き賢者が植えた魔力を持った樹。その樹の枝を使って作られた杖。値段は驚くほど高いが、魔術師なら一度は手にしたいと言われている。それが俺の手にある賢者の杖。 「無駄だってばぁー!」 村から発せられる少年の声。村人たちも何事かと集まってきた。俺は気にせず意識を集中させた。 魔術を発動させるには詠唱が必要だ。これは頭の中でできるので声に出す必要はない。詠唱開始と共に杖は光り出す。詠唱時間は使う魔術と術者の魔力によって決まる。 百秒間の詠唱を終え、杖は眩しいくらいにその光を強めていた。この状態で呪文を口に出して唱えることで魔術は発動するのだ。 「メテオ」 たった三文字の呪文。俺の使える最強の魔術。杖の光は次第に失われていった。 空から飛来物が凄まじい速度で向かってくる。この世界にはない巨大な岩の塊。隕石と呼ばれるそれは、数秒で村に直撃した。 封印の魔力と隕石がぶつかり合う。一瞬の間を置いて、封印が砕け散った。見えない壁の破片全てが光を発し、隕石を包み込んだ。隕石は音も立てずに粉々になり、壁の破片と混ざり合った。その二つが天へと昇っていく。 村人たちの反応は様々だった。何が起きたか理解できずに立ち尽くす者。村に降る隕石を見て気絶した者。天へ昇る光を見て感動する者。 入り口にいたあの少年は、何度も転びながらも逃げていった。
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