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アランの村。十年前、この世界を救った勇者が作った村だ。もちろん、一人ではない。その噂を聞いてやってきた旅人たちも一緒に。今ではこの村の住人として暮らしている。
村は何度も襲撃を受けた。噂を知ってやってきた人間の悪党。魔王を倒したアランを亡きものにするためか、魔物たちも頻繁に出没したらしい。その度にアランと戦える者が村を守っていた。しかし、死人とまではいかないが、怪我人は何人も出た。
ある日、村人たちはアランに村を封印してもらうよう頼んだ。アランは一度反対したが、苦しむ怪我人たちを見て封印する決意を固めた。村を封印するなど、前代未聞であった。何が起こるか分からない。
村の封印は確かに外敵から身を守ることに成功した。しかし、同時に村から出ることもできなくなってしまった。アランはやはり封印は破壊すべきだと村人たちに言った。だが、村人たちは村が襲われるよりはいいと考え、アランの言葉を否定した。
今から五年前――勇者アランはこの世を去った。突然の病死だった。村は永久に封印されたのだ。その事実を前に、村人たちは後悔した。
そして、今日。天より現れし巨大な岩が、村の封印を破壊した。その事実を知った村人たちは、封印を破壊した魔術師を勇者と呼び、彼を歓迎した。俺のことなんだがな。
「フォレス殿。感謝します」
眼前には長い白髭を生やした老人。この村の二代目村長だ。初代村長のアランは死んだ。勇者はもう、死んでいたのだ。
「感謝などいらん」
と言いつつも、俺はしっかり歓迎を受けていた。村長の家で食事しているのだ。味は携帯食料よりはマシといった程度だが、昼食代が浮くと考えれば儲けもんだ。
「この村が今日まで無事だったのは、神父様のおかげなのです」
村長の言葉で俺はある言葉が浮かんだ。
「聖職者か?」
「ええ。昔は聖職者として世界中を旅したと聞いております。今はこの村の教会に住み、神父として働いております」
聖職者は冒険者の職業の一つだ。神聖術というもので、多くの奇跡を起こす。魔術とは違うが、その力の元が魔力というのは魔術師と同じだ。
「その神父様が、新たな神聖術を生み出したのです。それが村の封印を通り抜けるというものでして、村に必要な物をヴェルティスへ買い出しに行ってもらっていたのです」
新たな神聖術を生み出した神父か。そんなことがあいつ以外の人間に出来るとはな。
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