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村長の家で飯を食べ終えた俺は、最後に勇者の墓はどこにあるか聞いた。本人に礼は言えなくなってしまったが、せめて墓の前でもと思ったのだ。
村長に教えられた墓場には二つの墓石があった。一つには『勇者アラン』と。隣には『勇者の妻エリザ』という字が彫られている。勇者の村で最初に死んだのが、村を作った勇者とその妻とはな。
俺は村長に貰った供え物を墓に置き、両手を合わせた。
「勇者アラン。十年前は言えなかったことを言いに来た。……ありがとう。それだけだ。どうか安らかに眠ってくれ」
目を瞑り、黙祷。十秒ほどそうして、俺は墓場を去ろうとした。その時だ。俺は妙な気配に気づいた。殺気ではないが、今まで気づかなかったのが不思議だった。墓参りに集中していたせいかもしれんが。
「誰だ……出てこい」
杖を取り出して構え、奇襲に備える。平和な村だし、危険はないかもしれないが、油断はしないようにしてる。半ば癖になりつつあると言った方がいいか。
反応はない。まだ気配は感じるが、相手の位置は分からなかった。
「出てくる気がないなら、魔術を使わせてもらう」
もちろん脅しだ。軽く杖を振って見せる。すると、ガサッと音を立てて何かが近くの木から落ちてきた。
「いってぇ……あっ、待って! 怪しいもんじゃない! ただ見てただけだから!」
着地に失敗したのか、足腰をさすりながら一方的に喋りだしたそいつは、封印を破壊した時、村の入り口にいた少年だった。見てただけと言うが、それは十分に怪しい行為だと思える。俺は少年に杖を向けた。
「何のつもりだ?」
「わぁっ!? 魔術使わないで! ちゃんと話すからぁ!」
「使わん。話せ」
俺は杖を少年の目の前から離し、言葉を待った。
「……いや、あの、立て札のことは謝るよ……調子乗ってた。ごめん」
俯きながらボソボソと喋る少年。しかし、どうでもいいことだ。今まで忘れてたし。
「それはいい。隠れて俺を見ていた理由が聞きたい」
「ああ、それは……えっと……兄ちゃんは勇者に用があって来たの?」
質問を質問で返された。俺は数秒の間を置いて返す。
「そうだ。まさか勇者が死んでいたとは思いもしなかったが」
「そ、そう……残念だったね……。ち、ちなみにその用って、王様絡み……だったりしないよね?」
「よく分かったな。その通りだ」
俺がそう言うと少年はうずくまり、震えながら何か呟いていた。
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