天才魔術師の仕事

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街道ほど便利なものが他にあるだろうか。例えば辺り一面が何もないただの平原だと、地図を持っていても迷うものだ。方向音痴云々に関係なく。だが、街道があればそんな心配をする必要が全くないのだ。いやはや、街道様々である。 決して口には出さないが、俺はそんないい気分で街道を歩いている。一仕事終えて、たっぷりと報酬を貰ったことも原因の一つだ。 魔術師フォレス。それが俺の職業と名だ。自慢じゃないが、天才魔術師とも呼ばれていて、結構な有名人だったりする。いい意味でも、悪い意味でも。 魔術師という職業は、一般的とは言い難いもので、数も少ない部類に入る。魔術を使う際に消費する魔力、これがある者とない者にわかれるのだが、前者の方が圧倒的に少ない。しかも、仮に魔力があったとしても、魔術師としての修行なしではまず使えない。というような理由もあり、魔術師を生業とする人間はかなり少ないのだ。 その魔術師を含め、冒険者と称される者たちは、基本的に酒場で仕事を貰っている。それは酒場の仕事ではなく、多種多様な依頼だ。専用の施設がないため、酒場が始めたもう一つの商売である。基本的に人のためになるものが多いが稀に犯罪を犯すような仕事もあったりする。まあ、国を守る兵士に見つかれば店主も牢屋行きになるので、依頼のリストに加える者は滅多にいない。 俺の一仕事を終えたというのも、その依頼を達成したということだ。今回は依頼の情報料が高かった分、報酬の金も多かった。守銭奴というわけではないが、金はいくらあっても足りないという考えには素直に賛同できる。家を持たない旅人でもあるからだ。肝心な時に金がなかったら、色々と困る。理由はそれだけあれば十分だろ。 この街道の先には、現在拠点として利用している――王都ヴェルティスがある。南東の中心地で、それなりに活気もあった。 次の依頼を最後にまた旅を再会するつもりだ。元々一つの街にずっと留まる気はないし、それなりに旅の資金も稼げた。 次はどこへ行こうかと思考を巡らせていた時だった。片手にナイフを持った男たちが道を遮るように俺の周囲に現れた。木の陰に潜んでいたらしい。身なりからして盗賊か。数は五人。街道を通る旅人を狙うあたり、気にするほど危険な存在じゃない。 「止まりやがれッ!」 盗賊の一人、正面の男が声を荒げる。俺は構わず歩き続けた。しかし、正面の奴は邪魔だな。蹴り倒してやろうか。
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