天才魔術師の仕事

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「どけ」 睨みを利かせてそう言うと、盗賊の男は半歩ほど右足を後退させた。俺が危険な存在だと感知できたのだろう。それを感じることができただけでも、この男がただの下っ端じゃないと思えた。まあ、十中八九リーダーだろうな。それでも俺の敵ではないことに変わりはない。 「――るせぇッ!!」 少し間を置いて男が怒鳴る。盗賊というものはどういうわけかプライドが高い。圧倒的な実力の差を目の当たりにしないと、何を言っても無駄だろう。俺もこんな奴らに構ってる暇はない。だから、どけと言ったのだ。それで解決すればよし。しなければ――今がまさにその時なのだが、片づけることにしている。 俺は無言で正面の男の顔面を殴った。一撃で白目を向いた男を蹴る。仰向けになった男を踏みながらこの場を去っていく。間抜けな顔でそれを見ていた他四名は無視。 「……あ、おい! 待ちやがれ!」 後ろがうるさいが無視だ。見ず知らずの人間に従うほど、俺はお人好しじゃない。 「野郎……ふざけやがって!」 別にふざけてない。 「聞いてるのか!?」 聞いてない。 「や……やるぞ、野郎ども!」 何一つ口に出さなかったのに結局こうなるのか。まあ、口に出したところで何も変わりはしないだろうがな。 俺は振り向きもせず歩き続けた。盗賊は四人同時に襲いかかってくる。実に単純な奴らだ。俺が油断してると思っている。 「死ねぇッ!!」 おいおい。やる気あんのか。俺は馬鹿な男の声を合図に後方の男の脇腹に回し蹴りを放った。さっきからうるさい馬鹿が声もなく倒れた。残りは三人。最初に一人あっさり倒したからか、若干腰が引けていたのだろう。俺の回し蹴りが届かないギリギリの位置で、腰を抜かして尻餅をついた。 「た……助けてくれぇ……」 中央の男が実に情けない声を出している。俺は三人の盗賊を一瞥し、再び街道を歩き始めた。俺の予想が正しければ、奴らは背を向けた俺に襲いかかってくるだろう。卑怯とは言わない。盗賊らしいやり方だしな。 三人は背を向けて歩き出す俺を見て、ナイフを握り直した。できるだけ足音を立てないように近づいてくる。素人丸出しもいいところだ。後ろ向いて歩いてる俺に気づかれてるぞ。 こいつらは盗賊に向いてないな、と考えていると、俺に向かってナイフを一斉に突き出してきた。俺は無言で振り向くと、相手が恐怖で顔をひきつらせる前に全員殴り倒してやった。
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