天才魔術師の仕事

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俺がヴェルティスに着いた頃にはもう日が暮れようとしていた。真っ先に向かったのは酒場。この街最後の依頼を貰うためだ。 店内にまだ客は数人といなかった。これから客が増える時間帯になるんだろうが、まあ、俺には関係ないことだな。 「おっ、もう依頼を終わらせてきたのか。さすがは天才魔術師だな。あっ、そうそう。実は――」 「依頼を受けたい。リストを頼む」 「まあ、聞けよ。そのことなんだが、あんたに依頼が届いてるんだ」 この場合、情報料は依頼人が払ってあるし、報酬も多いから優先的に受ける冒険者は多い。俺もその一人だ。もっとも、多くの依頼を達成させたり、難しい依頼を達成させたりして、冒険者としての経験値を稼ぐ必要がある。そうすることで名が知れ渡り、こういうおいしい話に出会えるのだ。 「依頼人はどこにいる?」 「城だ」 「兵士か?」 「違う。国王陛下だ」 俺は数秒固まっていた。国王の依頼など、聞いたことがない。城に仕える兵士に命じれば済むことだ。わざわざ冒険者に依頼する意味が分からん。 「……おい。俺は冗談を言う奴は好きじゃない。早くリストを出せ」 俺が睨むと店主は慌てたように手を振った。 「待て待て。嘘は言ってないぞ。まあ……簡単には信じてくれないと向こうも思っていたらしい。これを預かっていた」 店主が取り出したのは、如何にもな高級感を漂わせた一枚の手紙だった。中の紙切れを取り出すと、そこには依頼人である国王――ヴェルティス十七世という名と俺の名が書かれてあった。この国の象徴とも言える鳥の紋章まである。 「依頼内容については極秘だそうだ」 「この国の王は頭が悪いのか?」 「いや、逆だ。かなり頭がいいと聞いてる。何か考えがあってのことだろう」 俺は紙切れを手紙に戻し、道具袋に放り込んだ。 「城に行くのか?」 「宿を探す。……城には明日行ってやるから安心しろ」 「そ、そうか」 店主が心配するのも無理はない。俺が依頼をすっぽかして旅になんかでたら、自分が捕まると思ったんだろう。一応、仕事のことで何日か世話になった身だ。そんな薄情な真似はしないさ。まあ、受けるかどうかは依頼によるがな。 「頼むぜ……天才魔術師さんよ」 酒場を出ようとする俺に向けて店主が言った。俺は適当に手を振って応えた。 店を出た俺は宿屋探しを始めた。金には余裕があるし、今夜は高い宿にでも泊まろうかと思う。
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