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翌朝。宿屋で朝食を終えた俺は、城に向かって歩を進めていた。一国の王が冒険者に頼む依頼。受けるかどうかは別として、内容が気にならないと言えば嘘になる。
やがて城門が見えてきた。見張りと思われる兵士がいる。近づくと目が合った。
「何用だ?」
「王に呼ばれた」
俺は正直に答えたのだが、兵士は不審者でも見るような目つきに変わった。
「若造。牢に入れられたくなかったら、早々に立ち去れ」
確かに俺は若造と言われてもおかしくない年齢だ。まあ、目の前の兵士から見たらの話だが。子供の目から見れば大人に見えるだろう。ちなみに俺は十代後半。目の前の兵士は見た感じ四十代ってところか。
「わざわざ来てやったんだ。早く通せ」
「おい。あんまり俺を怒らせるな」
「それはこっちの台詞だ」
盗賊を怯ませた俺の睨みも、この兵士には通用しなかった。睨み合うこと数秒。先に口を開いたのは兵士だった。
「よし。そうまで言うのなら証拠を見せろ」
その言葉で俺は酒場の店主から手紙を受け取ったことを思い出した。高い宿の豪華な食事とぐっすり眠れるベッド。俺が手紙のことを忘れるには十分な理由だった。
早速道具袋に手を突っ込み、例の手紙を取り出す。そして中身の紙切れを分からず屋な兵士に見せた。その顔が徐々に青ざめていく。
「し……失礼しましたっ!!」
さっきまでの堂々とした態度が嘘みたいだ。頭まで下げている。
「天才魔術師殿が来ることは聞いていましたが、まさかこんなにもお若い方だとは……」
「いいから早く通せ。時間の無駄だ」
「は、はいっ! かいもぉぉぉんっ!!」
兵士の合図で門は開かれた。俺は無駄にした時間を取り戻すように早足で城内へ入っていく。中にいた別の兵士の案内で玉座の間を目指した。
城というものに入るのは初めてだったが、緊張したりすることはなかった。感想は、とにかく広い。それ以外に言い様がない。玉座の間にたどり着くまで、数分かかったぐらいだ。なんというか、理解に苦しむ。
「陛下、天才魔術師殿をお連れしました」
案内役の兵士が玉座に座る王の前で、跪いて頭を垂れた。
「うむ。ご苦労。下がっておれ」
「はっ!」
兵士はゆっくり立ち上がり、一礼。王の命令に従って玉座の間を去っていった。残ったのは俺と王とその隣にいる大臣と思われる男。やたらと俺を睨んでくる。恨まれる覚えはないのだが。気に食わん奴だ。
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