天才魔術師の仕事

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王らしくない。玉座に座った髭面中年男を見て思った俺の心のうちがそれだった。偉そうな口調は確かに王そのものなんだが、威厳がないというか、覇気がないというか。王冠や衣装を取れば、ただの中年の優男になりそうな、そんな感じである。 対照的に大臣の方は実に偉そうで腹の立つ顔立ちをしている。俺の王のイメージはこいつに近かった。つまり、俺は王に好印象など求めてなかったのだ。世間的にも王なんてものは、城で偉そうにふんぞり返って、自分では何もしないくせに、部下には何でもやらせる。俺と同じでこういうイメージを持つ人間は少なくないだろう。 「よくぞ参られた。天才魔術師……いや、フォレスと呼んだ方が良いか?」 「好きにしろ。それより――」 「無礼者ッ!!」 うるさい。早速王に依頼の話を持ち掛けようとした時、隣の大臣が大声でそう叫んで邪魔に入った。 「口の聞き方には気をつけろ!!」 今、理解した。大臣が執拗に俺を睨んでたのは、王の前で跪いて頭を下げなかったからだろう。無礼者呼ばわりされたのも口の聞き方に問題があったようだ。さらに一番重要なことも分かった。それは俺がこの大臣を早くも嫌いになったということだ。 「お前に用はない。少し黙ってろ」 大臣が信じられないというような顔で見てくる。正論を言っただけなんだがな。 「ふむ。大臣、フォレスの言うとおりだ。黙るか、それが嫌なら下がっておれ」 意外な王の言葉だった。大臣はまたも信じられないといった顔で、 「し、しかし!」 くどい。目障り。鬱陶しい。俺の大臣に対しての嫌悪感は尽きることを知らないようだ。 「大臣」 王が言う。その様子から呆れているのが見て取れた。大臣は俯いて動かなくなる。黙る方を選んだらしい。 「すまぬ」 王が俺に対して頭を下げた。大臣が顔を上げ、驚いた表情になり、何か言おうとして慌てて口を塞いだ。王の言うことには忠実だな。 「依頼のことを聞きに来た」 「うむ。感謝する」 「まだ受けると決めたわけじゃない」 大臣がまた睨んでくるが、もう気にしないことにした。王は軽く頷いて、とんでもないことを言いやがった。 「実は、そなたに勇者を連れてきてもらいたいのだ」 俺が酒場の時みたいに数秒固まっていたのは言うまでもない。 「頼めるか?」 「……ちょっと待て。勇者? 今、そう言ったのか?」 「うむ」 どうやら聞き間違えじゃなかったようだ。
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