天才魔術師の仕事

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十年前。この世界に魔界から魔王なる者がやって来た。魔界――またの名を裏世界と呼ぶ。この世界のどこかにそこに通じる扉があるらしいが、詳しいことは誰も知らなかった。 魔王はこの世界の人間を根絶やしにすることを宣言した。元々魔界の生き物だった魔物は、魔王の出現でより凶悪な存在となった。 村、街、城。人間の住む土地は日に日に失われ、また人間自身も多くの犠牲者を出したという。世界には絶望しか残らなかった。 そんなある日。一人の男が人々を救う旅をしているという噂が流れ、世界中に希望という名の光を与えた。男の名はアラン。剣術、魔術、勇気。その三つの力で魔王を倒し、世界を救った勇者と呼ばれるようになった男だ。 十年経った今でも、誰でも知ってる昔話。というにはまだ早いな。その勇者を連れてこいと王は言った。 「勇者の居場所を知っているのか?」 まずは俺の疑問を王に投げかけた。この世界のほとんどの人間がそうだろうが、勇者アランは命の恩人だった。会って恩を返したいとずっと思っていた。十年前は礼の一つも言えなかった。ただひたすらに泣いていた。目の前の恐怖や悲しみから、何も考えられなかったんだと思う。 「勇者の居場所はここより南。半日も歩けば着く場所に、勇者の住む村があるらしい」 返ってきた王の返答。意外と近い場所にあったんだな。 「らしい、とはどういうことだ?」 なぜ兵士に行かせない? とは言わない。もう行く気だからな。俺の中でそれはどうでもいい疑問となった。 「村を見た者は多いが、たどり着いた者はまだ誰一人としていないのだ。お主が魔術師なら、もう解るだろう」 「村が封印されてるのか」 「そうだ」 それは物などに施す魔術の一つ。封印された物には誰も触れることはできない。それが村全体を封印してるとなると、誰一人としてたどり着けないというのも頷ける。人間はもちろん、魔物すらも入れない封印された村。勇者が魔物から村を守るために施した魔術だろうか。それにしても、村一つを封印するとは、並の魔力でできることではない。封印を解くには魔術しかないのだが、封印した者の魔力に比例して封印も強くなる。 「それで俺を呼んだのか」 「そうだ。頼まれてはくれんか?」 頼まれなくても行く。だがその前に、冒険者として一番大切なことを確認せねばならない。 「報酬はあるんだろうな?」 さすがの王も大臣と一緒で驚いたようだ。
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