野田あずさ

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「恵ちゃーん…もういいよ。帰ろうよー。多分幻だったんだよ」 「またそんな事言う…」 「だってぇー…これだけ探しても見つからないんだよ?多分違う学校なんだよ…騙されたんだよ、私」 ぶつぶつ文句を言いながら恵ちゃんの後ろをついて歩き、階段を降りながら窓の外に目を向ければ真夏の空がそこには広がっている。 今日も暑そうだ…なんて思ってると身体のバランスが崩れる。 踏み外した!? 階段の真ん中を通っていた為手すりは遠く、下から慌てて駆けてくる恵ちゃんの顔がスローモーションに見える。 ああ…私はこのまま落ちて死んじゃうんだ。 ほんの一瞬なのに色んな事が脳に入ってきて、手首に感じた痛みが夢のように感じた。 次に感じたのは、微かな汗の匂いと石鹸の香り。 それと人の暖かさ。 「セーフ…」 声に顔を上げると、あの時より少しだけ大人びた顔。 そして太陽のような笑顔…。 一瞬見とれてしまったが、しっかり腰に腕を回され、抱きしめられたこの状況。 見つけた嬉しさや落ちかけた恐怖より、抱きしめられている事への羞恥が圧倒的に勝り、男子の腕の中で真っ赤になり固まった。 「あずさ!?大丈夫!?君、ありがとうね」 「いえいえ。立てる?」 言葉が出ずにいる私を怖くて立てないと判断したらしく、男子は軽々と私を抱き上げる。 いわゆるお姫様だっこ。 もう何も言いませんし抵抗しません。 だから早く降ろしてっ!!!! 羞恥で人は殺せると確信してる私の気持ちをよそに、男子は踊り場まで降りて、やっと私を解放してくれた。 「あ…ありがとう…」 「どういたしまして。野田あずさ先輩」 おどけた声で私の名前をフルネームで言う彼に驚き、 「だって、なかなか見付けてくれないから…じれったくなって俺が見付けた」 そんな言葉に再度赤面した。 私たちの側にやって来た恵ちゃんが彼に再びお礼を言って、怪我してないかと私の体中をぺたぺた触る。 「もー…びっくりしたんだから。怪我無くてよかった…」 「う、うん…。あの、ありがとう。二回も助けてもらって」 どういたしまして、と笑う彼の顔に少しどきりとしたが、何とか平静を装ってハンカチを差し出す。 「遅くなったけど、ハンカチありがとう」 「どういたしまして」
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