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ガァーっと開いた自動ドアから、中に溜まっていた空気が吹き出し、入れ違いに俺が中へ入る。
「いらっしゃい」
俺が声をかける前に、気付いた受付のお姉さんが笑顔を向ける。
「こんにちわ。今日は大丈夫ですか?」
「ええ。今ご両親がいらっしゃってるから…入りにくいなら待つ?」
気を利かせてくれたお姉さんに礼を言って、通い慣れた道を歩いて一つの部屋にたどり着く。
軽く三回、ノックをすればいつもはしない「はぁい」と返事が聞こえてドアが開いて女性が現れる。
「こんにちわ」
「祐樹君…いらっしゃい。お父さん、祐樹君が来てくれたわよ」
女性が中に声をかけると、仏頂面の男性がぬっと顔を出す。
「入りなさい」
それだけ言って再び中に入り、女性に促されるまま俺は中に入って椅子に座る。
「あずさ、三日ぶり」
ベッドに横たわる少女の動かない手をそっと握る。
ぴくりとでも動かないかと見つめる瞼は全く動かず、良く出来た人形のように少女は横たわっている。
俺達の様子を見ながら女性は涙を拭い、男性は何かに堪えるようにじっとしている。
そんな空気を破り、軽いノックと共に白衣を着た女性が顔を出す。
「失礼します。あら?祐樹君こんにちわ」
「こんにちわ」
「先生…あの…」
「…そうですね。別室でお話ししましょうか」
「あ、俺はもう帰りますよ。お邪魔しました」
「いえいえ。また来てね?」
「はい」
席を立ってぱたんと閉めたドアの向こうから、今後の少女の行く末が微かに聞こえてくる。
一度だけ深呼吸をして、俺は再び歩き出す。
振り返らないようにしながら…次の目的地へ。
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