5人が本棚に入れています
本棚に追加
「野田…お前はな」から始まった説教。
長々と綴られる言葉に意味は無い。
だって先生は私を知らない。
知った気になった言葉を綴られても、私には全く響かない。
生返事を返す私に先生はため息をつき、苛立ちを隠せない指が机をリズミカルに叩く。
「野田、お前進路どうするんだ?」
「まだ決めてません」
「進学か就職か…どっちかも決めてないのか?」
「はい」
「やりたい事くらいあるだろ?」
「ありません」
「ありませんって…とにかく、進学か就職か決めてくれ」
「……だったら恵ちゃんとがいい」
ぽつりと呟いた言葉に先生の指はぴたりと止まり、椅子にもたれて盛大な溜息を吐き出す。
「お前な…いつまでも日野を追いかけてどうするんだ。お前はお前、日野は日野なんだから」
「知ってます。でも恵ちゃんと一緒がいいんです」
「だったら日野がどこに行くのか知ってるのか?はっきり言って、今の成績だとお前には到底無理だぞ?」
「勉強します」
「好きにしろ」
頭を抱えた先生から零れた言葉。
私はとりあえず「はい」と答えて職員室を後にする。
教室に帰る間、私の頭の中には恵ちゃんとの大学生活の事しかなかった。
ふと反対側にある自分の教室が目に映る。
ああ…何で見てしまったんだろう…。
遠目からでも分かる愛おしい存在。
その隣に居るのは、私ではなくて知らない男子…。
そいつが恵ちゃんの手を握っている。
気が付いた時には、私は上履きのまま学校から飛び出していた。
息を吐いてるのか吸ってるのか分からない。
とにかく足が動いて走り続ける。
走り続け、何か大きな音がした。
そして強い力が私の腕に伝わると同時に、ぐっと何かに吸い寄せられる。
ぼんやりと顔を上げると、私をしっかり抱きしめ、肩に顔を埋めた人。
「何…してるの?」
「お前こそ何やってんだよ!!死ぬ気か!?」
肩から跳ね上がった顔と怒鳴り声。
理解できずに首を動かし辺りを見る。
路肩に寄せた車の運転手。
私と同じ学校の制服。
反対側の歩道から私を見る人。
段々冷静になる頭の中に、先程の状況がリプレイされる。
最初のコメントを投稿しよう!