罪と罰

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ロキが黙った。 「言うなよ………全身めっちゃくちゃ痛いから」 「あー、はいはい。それで?」 自分から聞いたくせに、パラケルススはロキを軽くあしらう。 「トール達、大丈夫かな……」 「だいじょーぶ!俺様が来たからには―――ぐげふっ!?」 家が突然激しく揺れ、ロキは意味不明な叫びを上げてすっ転んだ。 ジェレミィは慌てて割れた窓から顔を出す。 「トール!?」 そこにはトールの蛇腹が横たわっていて、痙攣してはいるが動く気配は無い。 黒い体液が、何処からともなく溢れて雨に流されていく。 「手酷くやられましたね…………元の大きさに戻りなさい!!選手交代です!」 「そこのコウモリネコもだ!」 シュウゥっとトールの体が縮んだ。 「トール、結局クレス様のお役には立てないのですぅ」 「黙るのニャン!!」 猫ならではの俊敏さでトールを口にくわえると、マコは割れた窓にダイヴした。 マコと入れ代わりに、パラケルススが外に出る。 トールに手早く回復魔法をかけると、ロキも出た。 「………貴方、大丈夫なんですか?」 「………多分」 ロキは魔法で水の塊を創る。 この雨で、水を集めるのにそう苦労はしない。 「喰らえ!!」 水が弾けた。 シェルバが得意とするウォーターカッターの、散弾版だ。 「全く………パイモンも余計な事をしてくれるものです」 広げたケープの裏に提げられた、幾十もの試験管やフラスコ。 「ま、僕には敵いませんけど」 試験管を片手に三本ずつホルダーから抜き、栓を開けずに投げ放った。 素早く呪文の詠唱に入る。 「―――我が血の契約により、汝らにかりそめの命与えたもう 汝ら、創造主たる我に従え!!」 試験管が砕け散る。 中から現れたのは一体の巨大な合成獣だ。 獅子の体に山羊と竜とライオンと鷲の頭、蛇の尻尾 フクロウの翼もある。 錬金術における一般的な合成獣・キマイラだ。 普通は鷲の翼なのだが、隠密向けにパラケルススはフクロウにしたのだ。 それぞれの試験管には、合成獣の素体が入っていた。 即席でも強力な合成獣を創れるあたり、希代の錬金術師は伊達ではないのだろう。
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