叫んだ声は木霊になって還る

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過去。闇の中。盲目の少女がいた。杖をついた少女。名前は、分からない。多分、名前はあるんだろう。誰にでもあるものだし。でもこの少女に限っては分からないな。名前なんかないのかも。でも名前、決めなくちゃ。名前は、そうだな、杖子とか。ちょっと単純かな。逆にして子杖。もうひとつ。こづえ。こずえ。梢だ。 梢は盲目だった。目が見えないんだ。だから梢はいつだって闇の中にいる。杖をついて闇をさまよう。普通の人なら、この状況を、まるで深い井戸に閉じ込められたみたいに思うんだろう。だけど梢は割と淡々としていて、慣れた様子だった。当たり前か。生まれた時から梢は闇の中の住人なんだから。
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