真珠姫が生まれた日のアレクとレディパのやり取りを捏造。

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「…何故」 手応えがあった。 硬質な物体を割り開く、剣の柄を握る手に鈍く響く手応え。 「何故、避けなかった…?」 不意を狙ったとは言え、感情に任せた一筋。 彼女を貫く前の瞬間の躊躇いだってあった。 それを易々と受け入れる彼女でないことは、 長年共に戦ってきたのだ、 よく知っているつもりだ。 「…仲間と真剣を交えるとは、気持ちのよくないものだな」 元来彼女は感情表出の大きな性質ではない。 そう言った彼女もまたそれを裏切らず、ほんの僅かに眉間を寄せただけだった。 見ようによっては寂しげに見えたその顔は、だがすぐに苦痛に歪められ、間もなくその膝を地につけた。 彼女の黒真珠には大きな亀裂が、一つの線を描いている。 その痛々しい様は、いつかの彼女を思い出す。 砂漠の空気に乾いた自分の唇が、酷く気になった。 「…仲間を、裏切ることはできぬ」 「…」 それでも 「傷ついている仲間に… 貴方に、剣を向けることはできぬ」 致命の傷を負っても尚、その声は高らかに響き 「石人形とまで言われて…意地になってしまったな」 皮肉っぽく、彼女は笑ってみせたのだ。 「…私は迷わない」 「アレク…」 「もう引き返せないのだ」 「!アレク!待て…っっつ!!!」 「…さようなら、パール」 かつての戦友を置き去りに、背を向けて歩き出した。 遠くから足音が聞こえる。 若い煌めきを感じる。 珠魅だろうか。 どのみち、彼女はもう助からないだろう。 珠魅が涙を流せぬ種族である限り。       日が沈むのを待つ砂漠の風は、乱暴な程に冷やかだった。     end
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