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玉石の姫を託したのはもう随分と昔のこと。
数日前、その彼から連絡が来た。
宿屋の一室に送られた一枚のカード。
その深いラズベリーレッドの煌めきを、私はよく憶えている。
砂に足を取られながら歩を進めた。
砂漠の風は強く、埃っぽい空気を身体に叩きつけられて鬱陶しい。
「姫様をお救いしたいのだ。
戦いが長引けば多くの珠魅が傷つく。
その度にお優しい蛍姫様は命を削って涙を流す」
遠慮がちに、それでも強く見つめてくるその瞳は、同意を求めているように見えた。
彼の実力に似合わず幼いそれは凛と芯のあり、昔の彼のそれと相違なかった。
ただ、静かな怒りが潜められていた。
「…それが玉石の座に座する彼女の勤めだ。
それに、傷ついている仲間を放ってはおけぬ、彼女は、蛍姫はそういう女だ」
私は引かなかったが、彼はそれほど期待していたわけでもなかったらしく、用意していたような言葉を続けた。
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