第一章 松尾家

2/6
前へ
/23ページ
次へ
 4月になったばかりの、心地よい日差しと、田舎ならではの新鮮な空気が何とも言えない。 今はもう夕方である。 車を走らす頼子は今年で22歳になる。 助手席には、息子の勝彦が座っている。 4歳になった勝彦はヤンチャな盛りで、今日も泥だらけになるまで走り回っていた。 勝彦は母親の頼子似だ。 頼子は18歳で勝彦を産んで育てている。 この頼子の育った地域は田舎で、若い娘が子供を産んだことに対して、最初は陰口を叩かれていた。 (あんな子が子供をそだてられるのか。) (子供が子供を作って。) と、 しかし今では頼子は近所で評判の良妻賢母で通っている。 前髪はパッツンで、それがまた似合う美人だが、それを鼻にかけたことはない。 「今日もいっぱい走ったね。」 頼子は息子に向かって話しかけた。 息子は目を輝かして、両手をいっぱいに広げた。 「こ~んなに走った。」 その姿はとても愛らしく、車のハンドルを離し、抱きしめたくなる衝動にかられた。 夫の隆太も一緒だったらよかったのに…そう頼子は思った。 最近の夫は、会社が休みの日には街まで行き接待ゴルフ、一家団欒も少なくなっていた。 旦那は27歳で田舎にしては給料もよく、住まいも豪華ではないが、居心地のよい中古の一軒家に住んでいる。 最近は一家団欒も少ないが愛する夫と、頼子と隆太の宝である勝彦との暮らしは満足で何不自由ない生活である。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加