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叶わないと知っていた
それでも、いつも君を見てた
夜空に浮かぶ月のように
ひたすら走っていた。
廊下に足音が反響している。
「あれっ、智成?もう例の3人、西階段のとこにいたぞ?」
「わかった。ありがとっ」
俺、香住智成(カスミ トモナリ)は、さらに速度をあげる。
あっという間に廊下の角を曲がり、声をかけた2人の少年から見えなくなってしまった。階段を一気に駆け上がる音だけが響いている。
「しかし羨ましいような、羨ましくないような」
「ホントに。あんな3人といたら平均な自分に嫌になりそうなのにさぁ」
「智成って、ある意味スゴいなぁ」
ばんっ!!
西階段を上った先にある屋上に繋がる扉を勢いよく開く。
「間に合っ…た!?」
息を切らせながら屋上の手摺の近くに座っている3人に声をかけた。
「待ちくたびれた」
3人は打ち合わせでもしたかのように声を揃えて答えた。
「ごめんっ。先生に捕まって資料整理してた」
「また?智成って本当にお人好しね」
俺から見て、一番右側に座っている女の子が答えた。
彼女の名は日下千草(クサカ チグサ)
容姿端麗、頭脳明晰。さらに財閥のご令嬢という非の打ち所のない人物だ。
「不憫な…」
笑いながら、そう答えたのは中西伊織(ナカニシ イオリ)
運動神経抜群で数々の部活からスカウトが来ている。
また、この学園でトップクラスの美男子で現役のモデルでもある。
「まぁ、それが智成の良いトコロだよね」
最後に、見事にフォローしてみせたのが七尾志乃(ナナオ シノ)
両親がパティシエで、本人もプロ顔負けの菓子作りの腕前。
容姿も、お嬢様のような(実際にお嬢様だが)千草とは正反対だが美人で、言い寄ってくる男は数知れず。
「みんな集まったし、始めよっか」
「賛成。ってことで…はいっ」
志乃はカバンの中から小さなクーラーボックスを取り出し、開けた。
中には手作りのケーキが4個入っている。
「あっ、私も紅茶持ってきたわよ」
今度は千草が水筒と紙コップを取り出し、紅茶をそそぎ全員に渡す。
「美味いな…しかも、結構高級なヤツだろ?」
「よくわかったね伊織。多分…100gで5千円位のかな」
「なるほど。美味いわけだ」
そんな2人のやり取りを眺めていた俺と志乃が同時に突っ込む。
「この金持ちめっ!!」
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