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「ごめんね、優ちゃん…」
あたりには木が鬱蒼と生い茂り、太陽の光を遮っている。目の前は急斜面で、下を見ると川が流れている。
来島瑞季は、毎日この場所に来ていた。
「ごめんね…」
もう何度もここに来て、何度も同じことをしている。川に向かって手を合わせ、涙を流している。
「ごめんね優ちゃん、本当に。あたし、絶対幸せにならない。面白いことも、楽しいこともいらない。優ちゃんをおいて、幸せになんかならない…」
日が傾き、空が茜色に染まっても、瑞季は動こうとしない。
やがて、街のあちこちに取り付けられたスピーカーから、5時を知らせる鐘の音が聞こえてきた。
「ごめんね…」
瑞季はようやく腰を上げ、家へと帰って行った。
後には、川の音だけがきこえている…。
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