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(あの声は一体……)
リドウェンは、まだ目覚めきっていない脳を酷使し、夢の内容を思い返していた。
しかしある事に気がつくと、勢いよくベッドから抜け出す。
部屋の隅では侍女であろう数人の女性が、リドウェンの身支度を世話する為にと待機している。
「王子、おはようございます。」
「ご、ごめん!!!急がなきゃ!!!!お願いします!!!!」
「はい。わかりました」
侍女達はリドウェンの慌てぶりに苦笑しながら、それぞれの役目を全うする。
リドウェンは気恥ずかしさからか、頬を赤く染めていた。
「ありがとう」
衣服を着替え、身だしなみを整えた彼の姿はもう、紛れもないこの国の王族。
つい先程までそこにいた、夢心地に浸るあどけない少年はすでになく、気品溢れる凛とした顔つきの王子へと変わっていた。
「リドウェン様。これを…。」
侍女の1人が彼にある物を手渡す。
「うん。」
彼が受け取ったのは銀細工のロケット。
王族が身に着ける装飾品としては、いささか地味な品物であったが、彼にとってこのロケットには思い入れ深いものがあった。
おもむろにロケットを開き、中に映る一人の女性の姿を見てリドウェンは祈る。
「母上…。今日、ディース兄さんは出発します。母上の命を奪った、魔物達を根絶やす為です。
どうか空の彼方から、兄上を見守っていてください。」
それを聞いていたまわりの侍女達の顔つきは曇りはじめる。
中には悲しみに胸を痛めたのか、すすり泣く者もいた。
「リドウェン様…。そろそろ…」
先に部屋を出ていたデュランは、再度部屋に入り急を述べ、時間の猶予が余り残されていないことを伝える。
「わかった。それじゃあ皆、僕のせいで悪かったね…。」
「いいえ、滅相もない…。いってらっしゃいませ…」
侍女達は部屋を後にするリドウェンとデュランを、ドアが閉まりきるその時まで深々と頭を下げて見送りだすのであった。
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