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それから数日後、エマオス城では何の変わりばえのない平和な日常が過ぎていった。
この国の王であるエマオス14世は大臣と共に国務に追われ、多忙なる毎日を過ごし残された王国軍の面々は、王宮騎士団副司令官兼王国軍指揮官デュランの下、厳しい訓練をこなす日々が続いていた。
「よし、今日の訓練はここまでとする!!各自解散!!!!」
王国軍の兵達は多大な疲労感を抱え、よろめきながらも各々の帰路につく。
だが、中にはデュランによる鬼のしごきを受けていながらなおも帰る事はせずに、自ら鍛練をするなど気骨のある者もいた。
「はぁ!!」
「精が出るな、ケイト。」
デュランの前で訓練に励むのは、着込む甲冑の上からでも判るほどの細身体型の女性。そんな華奢な体の持ち主でありながらも鬼指揮官と王国軍内で呼ばれているデュランのしごきに耐え、なおかつ自ら進んで自主訓練をするという気概に溢れた女性であった。
「はっ。指揮官殿。先程はご指導ご鞭撻承り、真にありがー…」
「…お前はほんと、指揮官の前だとどうしてこう…こむずかしくなるのかなぁ?」
2人の会話に茶々を入れるのは同王国軍の一等兵、カイムである。
彼は普段から何かにつけてケイトに絡んできた。
その証拠に、他の兵達が帰った今でもなお鍛練をするわけでもなく、この場に残りこうしてケイトに絡んでいる。
「…わざわざここに残っているのなら、お前も鍛練に励んだらどうだ?…カイム?」
相手が男と言えども決して臆する事はない彼女。その姿は凛としていて、王族でなくとも気品に溢れそして貫禄があった。
「はいはい、わかりましたよ。副指揮官どの。」
「貴様、私を愚弄しているのか?」
ふざけながら返事をするカイムの首筋に、鏡のように反射光を放つ研ぎ澄まされた刃が向けられる。
「ケイト、そんな真似はよせ。仮にも副指揮官たる者がそんな見え透いた挑発に乗ってどうする?」
一触即発の雰囲気をとりあえず打破したのはデュランであった。
ケイトは我に返ったかのように急いでカイムの首筋に突き立てた剣を、自らの鞘にしまい込む。
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