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彼女の目にはもう、これから試合をする相手の姿しか見えていない。
デュランは深いため息の後、一呼吸おいて始まりの一声をあげる。
「(やれやれ…。戦いとなると自分を見失ってしまうか……まだまだ青いな…。)よし、それでは始め!!!!」
開始の号令がなされ、二人は訓練場の隅でロープに繋がれていた己の軍馬の元へと駆ける。
手綱を握り、それぞれの下僕たる軍馬がのけ反ったかと思えば、その者達は高らかに鳴いた。
そしてその蹄が地に着く時、カイムは片手で持った槍に模した棒を上から下へと一振する。
「どこからでもかかってきな」
同じくして軍馬を器用に操るケイトは、訓練用に仕立てられた木剣をカイムのいる方へと突き立てた。
「ふっ…、戯れ言を……。今に後悔するぞ…。」
軍馬は一直線に駆け出した。
かなりの広さを誇るこの訓練場であったが、二人の距離は早々と縮まる。
土埃が周囲に大きく舞い散り、二人の様子を伺う事さえままならない。
ただ聞こえてくるのは、二人の怒声と木と木がぶつかり合う鈍い音のみ。
現在の両者の優劣は目視できない為に、普通ならば知り得ない事であったのだが。
「…意外とカイムが押してるな。接近戦ならば小回りのきくケイトの武器の方が優れてるんだが…。」
「近距離戦であれば、[リーチがあるカイムの方が有利]ってのもうなづける話なんですがねぇ…。どうしたんでしょ?ケイトは。」
経験の豊富さからか、デュランには現在の戦況を量る事ができていた。
それに便乗してロスタムも自らの考えを述べる。
と、そこへ…。
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