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「さぁ…。もう逃げ場はない…どうする…?」
赤く燃えさかる建物内部、辺りはまさに火の海だった。
熱風が吹き荒れ、過度に酸素が消費さたこの空間では、呼吸すらままならぬ程の息苦しさを感じさせる。
しかし、この建造物のホール中央に佇む男は、その危機的な状況を何とも思っていないのか、余裕の笑みを浮かべていた。
ここはとある国が保有している
【あるもの】が安置された神殿。
中は劫火によって蝕まれ、神殿の天井部分を支えている支柱は、今にも脆く崩れ去ろうとしている。
男の様相は、全身が黒一色に統一された、とても重厚でいて刃を突き通す事は到底できそうもない程硬そうな鎧を身に纏っている。
肩の甲冑に取り付けられ、足元近くにまで垂れ下がった大きな漆黒のマント。
そのマントに荒ぶる炎は決して燃え移る事はない。
そして厚手の篭手の先には、身の丈をも余裕で上回る大剣を手をしている。
そんな彼は迫り来る大火をものともせず、いとも簡単に火の海の中を悠然と突き進んでいく。
まるで炎自体が、迫り来る彼を自ら避け男に道を作っているのでは、と思ってしまう程彼の歩調に躊躇いは無い。
顔には鼻から上部分だけを隠した、銀色に光輝く金属製の仮面を付けているのだが、黒で統一されている彼の全身に対し、その部分だけがまったく異なる色であったためひどく浮いており、そして印象的だった。
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